換情奪見

《嘘熟語》他人の情報の語句や構想をうまく利用し、その着想・形式をまねながら、自分の作としても(独自の)価値があるものに作ること

映像で見る都市の100年(ベルリン編)前編

秋晴れのシルバーウィークになって本当によかったですね。先週の雨続きが嘘のようです。

 

古い映像を漁るのが日頃の趣味なのですが、やはりカラー映像ってその時代の空気感がダイレクトに伝わって興味深いです。今回は時代背景を交えつつ、ベルリンにフォーカスを当てて映像の紹介を行いたいと思います。

 

 

近代化の象徴

都市は近代化のシンボルのような存在です。鉄道や水道、電気など社会インフラ基盤から博物館や国会議事堂など文化や政治の中心的存在まで、あらゆる生活が都市で行われた近代化によって一変してしまいました。そのようすを垣間みてみましょう。


Berlin 1900 in colour!!!! - YouTube

路面電車や電気鉄道がベルリンの街を颯爽と走っています。道路は自動車やバスで満杯で馬車も見られますが、すでに時代遅れのようで道路では肩身が狭そうにしていますね。


Berlin 1900 in Colour Part 2!!!!!! - YouTube

次の映像は軍隊がメインです。ドイツは普仏戦争の結果、軍事力によって統一されたといっても過言ではなく、ドイツの魂は軍事的な自信で溢れていました。この自信が過信となり、第一次世界大戦へと向かわせる原因となりました。近代国家の戦争はこのころから武器の性能ではなく、持久力がものを言う総力戦へと時代が移ります。軍隊対軍隊の時代は終わりを告げ、戦争は国民対国民となって行きます。


西部戦線異状なし 予告編 - YouTube

戦争からきらめきと魔術的な美がついに奪い取られてしまった。アレキサンダーや、シーザー(カエサル)や、ナポレオンが兵士達と共に危険を分かち合い、馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する。そんなことはもう、なくなった。

これからの英雄は、安全で静かで、物憂い事務室にいて、書記官達に取り囲まれて座る。一方何千という兵士達が、電話一本で機械の力によって殺され、息の根を止められる。これから先に起こる戦争は、女性や、子供や、一般市民全体を殺すことになるだろう。やがてそれぞれの国には、大規模で、限界のない、一度発動されたら制御不可能となるような破壊のためのシステムを生み出すことになる。

                    ウィンストン・チャーチル

 

銃後の反乱

1918年、「すべての戦争を終わらせる戦争」と言わしめた第一次世界大戦はドイツ内部の革命によってあっけない最後を迎えます。


The Revolution In Berlin! (1918) - YouTube

このドイツ革命によってヴァイマール共和国が成立、左派が政権を担うことになりますが、国家のために戦った自負を持つ軍隊が解散した後、準軍事組織として暗躍、テロを繰り返すなど、その政権基盤は危ういものでした。数多くの準軍事組織がドイツでは生まれましたが、その中のひとつがヒトラー率いるナチスでした。


Adolf Hitler attends a 1927 Nazi Party rally in ...

1927年のヒトラー率いるナチス党です。この時はまだいくつかある右派組織のひとつでしかなく、次の年に行われた国政選挙で12議席を獲得するに留まっています。

 

黄金の20年代

ナチスが見向きもされなかったのは、1920年代後半のドイツが、フランスが戦後占領していたルール地方の返還、アメリカの好景気、ドーズ案による賠償金の緩和などが要因となって、空前の好景気に見舞われていたことが大きいです。


Tour Around Berlin In 1929 - YouTube

都市生活も繁栄し、工業生産力も活力を取り戻していきました。


Ruttmann Berlin 1927 - YouTube

インフレなど不安定要因はありましたが、失業率1928年には5%にまで下がり、政治的にも国際連盟への加盟を果たして国際的地位も復帰しました。

 

世界恐慌

すべての始まりは1929年アメリカのウォール街から始まった世界恐慌でした。ヨーロッパに波及した恐慌は、ようやく戦後復興を果たそうとしていたドイツに直撃します。失業者の数は天文学的な伸びを記録し、登録された失業者だけでも1932年、600万人にまで達します。このような時代を予見したような映画がベルトルト・ブレヒトの戯曲『三文オペラ』です。


Die 3 Groschen-Oper (1928)三文オペラ.G.W Pabst.Mack ...

三文オペラ』というと『モリタート(Mack The Knife)』が有名ですが、この『人間の努力の至らなさのうた』の方が時代背景や今後の歴史を考えると面白いです。

 

そしてナチスがやってくる

ナチス世界恐慌という格好の題材を元に勢力を伸ばして行きます。そして、1933年の総選挙でついにナチスは第一党に躍進し、ヒトラーは首相に就任します。


ドイツのアドルフ・ヒトラー氏の演説 - YouTube

ヒトラーの首相就任演説です。熱っぽいですね。掘り下げるとベルリンから遠ざかってしまうので、話を戻します。ベルリンはヒトラーの強力な指導のもと都市改革が行われ、道路や新しい建造物が次々と建設されていきました。この「偉業」を記録するため、ヒトラーは当時まだ珍しかったカラー映像で記録しています。


Berlin 1935 in Farbe - YouTube

道路の拡張や鉄道の再整備で街の風景は今までよりもスッキリしたようにみえます。人々の生活はまだ平穏ですが、所々にハーケンクロイツの旗が翻り、突撃隊やヒトラーユーゲントのカーキ服が行き交っているところが不気味です。

ヒトラーがベルリンに対して求めたゲルマン民族としての誇りは、1936年の『ベルリン オリンピック』で体現することになります。


映画「民族の祭典」 "Olympia" 開会式 - YouTube

 

「人間の努力の至らなさ」

生きていくにゃ 悪くなきゃだめだ

けど大志を抱くのは 見上げたもんだ

幸運を追い求めろ しかし焦りは禁物

皆が幸運を追い求めると 幸運様は息切れしちゃう

 

生きていくにゃ 無欲でなきゃだめだ

どんな大志も幻に過ぎないからさ

 

三文オペラ『人間の努力の至らなさのうた』より

 


Rare Battle For Berlin Footage - YouTube

ベルトルトが歌うように、どんな大志も幻に過ぎないのかもしれません。1945年、ベルリンはソ連軍によって徹底的に破壊されます。ヒトラーはベルリンと心中するつもりで、市民に対し徹底抗戦を要求し、避難は許されませんでした。街中は逃げ惑う女子供たち、避難しようとした男性は「臆病者」として処刑された様子が映像から伝わってきます。


Berlin in July 1945 (HD 1080p color footage) - YouTube

1945年、占領されたベルリンです。西側をアメリカを中心とした連合国、東側をソ連がそれぞれ統治しています。最後に出てくる台詞は、ヨーゼフ・ゲッベルスの『総力戦演説』の一説「Wollt Ihr den totalen Krieg?(諸君は総力戦を望むか?)」です。破壊された建物は『総力戦演説』を行った「Berliner Sportpalast(スポーツ宮殿)」でしょう。

 

映像は戦争の傷跡が生々しく残っている様子を映し出し、その中で懸命に生きる市民の姿が印象的です。対称的なのは、観光気分のアメリカ兵やソ連兵の姿です。この時はまだ両国は協力関係を維持していました。しかし、この後、アメリカとソ連は覇権を争って冷戦が開始されます。ベルリンの人々は再び時代の流れに翻弄されて行く事になります。

 

後半は1950年代〜70年代にかけて行われる冷戦を中心に現代に至るベルリンの姿を紹介する予定です。

 

 

ベルリン1933

ベルリン1933